釜bしてくれんと――
清水 先生、講義をつづけてください。
柴田 うむ――そりゃ、しかし――
清水 Bクラス全員の希望です。Aクラスでも、そいから全校のみんなが希望しています。
柴田 ――しかし、そりゃ――だが、私の単位は今学期は取らなくてもパスさせる事になっていると教務の方で――
清水 パスするしないの事じゃないんです。先生の講義をみんな聞きたいんです。
柴田 ……だがね、私は、とにかく、休職願を出していて――
清水 それを引込めてください。
柴田 ……そいつは、どうも――(指の先で額にこびりついた泥をこすっている。清水は上体をまっすぐに椅子にかけて、相手を正面から見すえている)……うむ。……まあ、しかし――どうだね、君の腕はその後? もう痛まないかね?
清水 ……(表情も動かさぬ)
柴田 胸にも、たしか貫通銃創を受けていたね? そっちの方は、もうスッカリ――?
清水 ……(平然としている)
柴田 うむ……(相手がだまっているので困って額をこすったり[#「たり」に「ママ」の注記])
[#ここから2字下げ]
(せい子がバケツをさげて戻って来る)
[#ここで字下げ終わり]
せい ――ポンプの工合が又悪くなったんですよ。ホントにしようがない――。(炊事場に置いたバケツからコップに水をついで柴田の所へ持って来る)はい。
柴田 ありがとう――
清水 これは――(と床の上に置いた包を持ちあげて)クラスの者から、先生に差しあげてくれ――ジャガイモです、すこしですが。皆で持ち寄って、もっとたくさんにしてとも話し合ったんですが、持ち寄ると言っても、どうせ買って来る――するとけっきょく闇で、先生お食べにならんから、なんにもならん。――そいで、しかたがないので、グランドのクラスの畑に出来たのが、まだ残っていたもんですから――。
柴田 ……(あきれたように、口をすこし開けて清水を見ている)
せい ……(手早くヤカンに水を入れ、火を燃すために、そこの薪を小さく割ろうとして手斧を取りあげたまま、清水の言葉を聞いていたが)まあ、ねえ!(パチパチと眼ばたきをしていたが、着物の袖で涙を拭く)……それ程、先生のこと思って下すって。
清水 (吐き捨てるように)なあに、これっぱっち、なんにもなりません。
せい (寄って行き、ていねいに頭を下げて、包をいただいて食卓の端にのせる)……皆さんによろしくお礼を
前へ
次へ
全71ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング