ネい)まあ、おかけなさい。
清水 はあ。(椅子にかける)
柴田 学校へも、だいぶ出かけないでいるんで、君達にゃ悪いと思っているが――
せい (柴田の胴に手をかけて助けおこしながら)ごらんなさいな、こいだけ、からだが、なにしていらっしゃるのに。
柴田 チョット疲れただけだ。(ヨロヨロしながら食卓のそばの椅子にかける)はは、なあに。……すまんが、水を一杯くれんか。
せい いっそ、でも、井戸へ行ってお洗いになったら?
柴田 いや、飲むんだ。
せい それなら、どうせ、すぐお茶を入れますから――
柴田 お茶はお茶で貰うとして、その前に――
せい はいはい。……(炊事場になっている所へ行き、バケツをヒシャクでかきまわして見て)おや、おや。……(からのバケツをさげて、上手の扉を開けて出て行く)
柴田 ……よく来たね。
清水 (柴田の様子を見守っていたのが)どっか、苦しいんじゃありませんか?
柴田 む? いやあ、どうしてだね?
清水 いえ、なんだか、その――
柴田 いや、馴れない仕事をしたんで、ホンのチョット息切れがするだけだ。はは。
清水 (不意にムキになって)先生は、学校でも、そんなふうにおっしゃった事があるんです。
柴田 なにが?
清水 五番教室に行く三階の階段です。うしろから見ていると、手すりにつかまって、先生、ヨロヨロして、五度も六度も休んでいらっしゃいます。――そいで、加藤が、いつか、どうかなすったんですかと、きいたんです。そしたら、今と同じように――
柴田 そうかね、私あおぼえていないが――なにしろ、脚気の気が有ってなあ。
清水 (相手の言葉は受けつけないで、寄り眼になったような視線を柴田の半白の前髪にヒタと附けたまま、しかし、静かな無表情な語調で)いつだか僕等の間で議論をしたことがあるんです。……早くなんとかしなくちゃと言う者もありました。……馬鹿だと言う者もありました。……そこへ斎藤先生が通りかかられて、ニヤニヤ笑われて、しかしあすこまで国策を守れる人は、えらいもんじゃないか、と言われました。……その時の、斎藤先生の笑い顔と眼つきを、自分は忘れる事が出来ないのです。
柴田 ――なんの事を、君あ、言ってるんだえ?
清水 ……(しばらくだまっていてから)今日は、自分は、クラスの代表として、クラスの全員の意志を持っておうかがいしたんです。
柴田 よくわからんなあ。ハッキ
前へ 次へ
全71ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング