モツぁんと秀三が取っ組合いの喧嘩ですもん、ふふ。……そいで、今日はどうしても、半年分か三月分位は、是が非でもいただいて来いと、お父つぁんが言ったんです。
せい でも、こちらも、どうにも都合が附きませんので、どうか、もう少し――
お光 冗談でしょう、こちらさまなどが五百や六百の金位にあなた、ヘヘ。
柴田 それが君、はずかしい次第じゃが、まるきり余裕がなくてなあ。すまんが――
お光 だってこちらは、大学校の先生でしょ?
柴田 (苦笑)うむ、そりゃまあ――
せい 家や家財が焼けてでもいなければ、もう少しなんとか格好の付けようが有ったでしょうけどねえ、ホントに今の所、なんとしても――
お光 焼けたなあお互いさまですもん。
せい でもねえ――家でも、まだ焼けないで残っていれば、なんですけどさ、お宅のお父さんに建てていただいた家は跡形もなく焼けてしまって、こうしてあなた、遠縁にあたるこんな所の、それもたったこの部屋だけが焼け残ったのを借りて、みんなで住んでいるようなありさまですからねえ。
お光 今更になってそんな言い方ってないじゃありませんか。内のお父つぁんはこちらから請負って家を建てたんだから、その請負賃の残金を貰うのはあたりまえでしょう? 丸焼けになったのはお父つぁんの知った事じゃないじゃありませんか。冗談言って貰っちゃ困りますわよ。第一、八年前にお宅を建てた時分と今とじゃ、お金の値打が、まるで十分の一か二十分の一になっているんですからね、あの時の五千円と言う残金を、あなた、今の金で貰ったって、まるきり、なんのたしにもなりゃしないんだから、本来ならば月賦の金の百円を千円ずつにして貰いたいとこだって、お父つぁんなど言っている位ですよ。
せい そりや暴と言うもんです。そんな、あなた――そんな事おっしゃったって――
お光 暴だって?
柴田 まあまあ、いや、何と言っても私の方に払込む義務は有るんじゃから――
お光 そうですよ、義務が有りますよ。
せい いえ、そりゃ払わないとは誰も言やあしないけど、同じ催促するにしても、なんとかもうチット、しようが――
お光 あなた、こちらの奥さん? 奥さんじゃないでしょう?
せい ……そりゃあなた、私は――
お光 こちらの亡くなった奥さんは、ようく知っているんですからね。おとなしい、おきれいな、そりゃ良い方でしたよ。お亡くなりんなる前だって、うちの
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