は、もっとも、それんおかげで俺みてえな木びきが食って行けよるとじゃけん。
健二 なんと、大ノコ一丁でこんだけの歪みしゃくった木が糸でも打ったこと、ピシリと引けるとかなあ……
六平 なあに、もう六十をすぎちゃ、気ばかり立っても腕はナエた。おのしたちの親父が生きてシャンシャン引いてた時分の板ば見せたかったのう!
お花 死んだお父っあんな、そんな、そんな腕のいい木びきだったの?
六平 うむ、健五郎は、この日田にも三人とは無え名人だった。俺なんざ、今でも、むつかしい木取りの時あ、目の前に健五郎ば置いて、どげん引目ば入れりゃよかつかい健五郎ちうて、相談しいしいやっちょるとばい。健五郎は死んでしもうたけんど、幼な友達の俺が呼べば亡霊になって、すぐに来てくるるけんなあ。
お花 小父さんの話あ、じきに亡霊の話になるけんいやだ。
六平 しかたなかろ、この小屋にゃ年中、亡霊たちが遊びに来るんじゃけん。もっとも、俺もこう老いぼれちゃ、もうへえ、亡霊の一人じゃというてもよかようなもんだい、アッハ、ハ、ハハ――。

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健二もお花も声を合せて笑う。
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六平 さ、茶が
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