五郎「山で切る木は、こら
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かずかずあれど
思い切る気は
さらに、ない
やれ、チートコ、パートコ」

味もそっ気もない、ただ器量一杯の声で唄う。つづいて、それを真似て、しかしたちまち芸者が座敷で唄う唄い方で、
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およね 「やーれ、
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山で切る木は、こら
数々あれど
思い切る気は
さらにない
やれ、チートコ、パートコ」
こうな、五郎しゃん?
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五郎 ちがう! そぎゃん早う唄うちゃ駄目たい!
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「やーれ!(仲蔵がクスクス笑っている)
破れわらじと、こら
おいらが仲は
すぐに切れそで
切れやせぬ。
やれ、チートコ、パートコ」

それを追っかけて鳴るおよねの三味線のひびき……
M……
このあたりまでの歌や音楽の調子は、最初は単音のそれが次第にポリフォニイになり、それが暗くなったり明るくなったりするが、いずれにしても古い日本の民謡をそのままに受け容れた、したがって基本的に単純な懐古的な調子である。今から二十年前の北九州の空気を跡づけるような色彩。
それが、このあたりから急激に、音
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