じゃ行ってきまつす。さ、五郎さん。

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カタカタカタカタと二人が歩み去って行く。
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お銀 (それを見送りながら)ばってんが、馴染みの芸者の所へ久しぶりに行くちゆうのに、テレくさかちうて、ああして、そのたんびに五郎ば連れて行く若い衆さんじゃけんなあ、むぞらしかねえ! ハハハハ。

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番頭一、二、笑う。
夜の大川の水の上に突出すように立てられた料亭の奥座敷に、芸者のおよねと仲蔵と五郎の三人。
いきなりしっかりしたねじめの三味線の音が響き始めて、およねの歌。博多節。
これらの歌声も、すべての物音も、この場では、満潮の大川の水面に反響する。
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およね 博多帯しめ
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筑前しぼり、筑前博多の帯を締め
歩む姿が、ありゃどっこいしよ
柳腰
お月さんがチョイと出て松のかげ
はい今晩は。
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仲蔵 はい今晩は、か。およねしゃん、あんたも、ひとつ飲みない。(卓上の盃を取って出す)
およね (三味線をわきに置きつつ)あたしは無調法ですけん、仲さん、もっと……(と酌をする)
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