、杉村の三人が筏の上で快活に笑う声。ザザザーアと急流の響。
急に音の効果が変って鈍い、低い、陰気なダブリ、ダブン、チャブ、チャブと深夜の筑後川の水音。そこをゆっくりと筏が流れて行くギギギーッという音……
[#ここで字下げ終わり]

伍助 (三人とも鈍い、眠むそうな、そして少しおびえた声)暗いなあ、まるで、へえ、鼻の先い、スミぬられたみてえで、岸も見えん。
仲蔵 伍助は筑後川あ、はじめてじゃったなあ。そら、そうよ。筑後川もこの辺までくると川巾だけでも五六丁はあるきねえ。
杉村 ひと雨くるとじゃなかろか、仲しゃん?
仲蔵 そうさな……んでも、降りゃ、しめえばい。(三人は、それぞれ長い筏の持ち場に竿を持って、立ったまま話しているので遠くへかけての対話)どうしたな杉村? 寒かとな?
杉村 寒うはねえばってん――
伍助 声めふるえとるぞ、杉村あ!
仲蔵 伍助、お前だって声めふるえとるよ。ははは、さてはお前たち、誰からか聞いて来たな? 筑後川に夜筏を流しとると、舟幽霊が出て、筏の足ば止めてしまうとか何とか? フフ、あれはなあ、こういうわけだぞ、もうあと半みちも下ると、佐賀から流れて来とる江湖《エコ
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