》川がこの川にあわさる。江湖川ちうのは汐入りの川で川口からジカに汐があげさげするき、俺たちゃ、そこで明日の夜あけまで待って江湖の方が上げ汐になったのば見て佐賀の方へのぼって行くだ。その、この川と合さる口のへんで水面と深みとでいろんなごつウズを廻いてね。そこへちょうど筏が乗ってしまうと、いっときピタッと止ってしもうたり、ひとつ所ばグルグル廻りはじめたりする、それを舟幽霊に止められたの、川太郎にだまされたのと言うとたい。はは!
杉村 そうかねえ……
伍助 ありゃ! あれは、なんだ? え、仲しゃんなんの声じゃろか、ありゃ?

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他の二人がシーンとしてしまう。……遠くの岸の方から、人の声とも動物の声とも、なんともわからない、かすかなブワ、ワ、ワ、ワーンと響く音が暗い川面を渡ってくる。
川波の音。筏のきしり。……
[#ここで字下げ終わり]

杉村 なんかなあ、ありゃ?(声がふるえている)
仲蔵 うん。……なんかなあ(この声もおびえている)
伍助 (だしぬけに叫ぶ)あ、ありゃ、なんだ? 仲しゃん、ありゃ、そら、トモの方に真黒いもんが、川ん中から這いあがって坐つちよる! ほら、
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