仲蔵 (それを受けながら。……以下適当に酒を飲みつつ)いつもの事だが、うまかなあ。なあ五郎しゃん!
五郎 (これはモグモグなにか食いながら)うむ、うまか。
仲蔵 五郎しゃんに、うまかとが、わかるかな?
五郎 このエビとキントンなあ、うまか。
仲蔵 えっ? エビとキントン? そうか、ウフツフ、エビとキントンかな?
およね ホホ、もっと、じゃ、持って来てもらいまつしうか?
仲蔵 (ふきだして)アッハハハ! アッハハ、フフ、アッハハ!
五郎 なんな?
仲蔵 ハハ、俺あ、また、博多節のこつを……フフ、およねしゃんの博多節のこつを、ほめたら、よ、五郎しゃんなあ、エビとキントン……フッフフ、ハッハハ!
およね ホッホ、ホ、ホ!
五郎 (これも釣りこまれて笑いながら)ばってん俺あ……ハッハハ、そりゃ、博多節もうまかです!

[#ここから3字下げ]
それで仲蔵とおよねが声をそろえて笑いだす。障子の外の大川をギイギイと船をこいで行く男が、これも何となくこちらの笑いにつりこまれて、きげんの良い声をあげてからかう。
[#ここで字下げ終わり]

船頭 ワッハハハ、アッハハ、かよう! ハハ、……(歌になる――)吹けよ川風、あがれよすだれ、中のオナゴシの顔見たか、と。アハハ、はい今晩わあ、ごきげんさん、と?

[#ここから3字下げ]
その声とロの音が遠ざかって行く。
[#ここで字下げ終わり]

仲蔵 (まだ笑いをふくんだ声で)だけんど博多帯と言うなあ、どんな帯じやろか? 歌にまで唄うてあるんじゃから、よっぽど良か帯じゃろなあ。
五郎 仲しゃんな、まだ博多帯見たことんなかと?
仲蔵 見たことなかとです。
五郎 そんなバカな! うんが鼻の先い、いつでん見えとるのに――
およね 五郎しゃん、言うたらいけん! ホホ、まあ、まあ、こっちいおいでんさい! こっちい、さ!(五郎の両肩を背後から袖で抱いてしまう)
五郎 フフ、なにすっとな、およねしゃん?
およね じつとしてて! じっとしててな!
五郎 ばってん、くさか!
およね まあ、くさかですと? あたしが?
五郎 うん、おなごくさか! プウ……
仲蔵 ハハ、何がどうしたとな? 芸者から抱きつかれて、くさかか? ハハ。
およね くさかろばってん、いつとき、じっとして五郎しゃん。フフ、仲さん、あんたホントに博多帯見たことなかとな?
仲蔵 見たことなか。

前へ 次へ
全20ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング