やあ二度なかたい。会うてきんしゃい。相手が、あのおよねさんちゆう子ないば、私も、二三度会うて、よく知ってる。ありゃあ、芸者ちゆうたって、ここらの町のゴゴさんよりゃおとなしか子じゃけん、心配いらんたい。
番頭一 ばってんが、おとどしみたいに柳町で金ば使いすぎて材木代金にまで手ばつけて日田に帰られんごとなっちゃあお互いに困りますけんな。
仲蔵 そ、そ、そんな番頭さん……
番頭一 ┐
    ├ワッハハハハ。
番頭二 ┘
お銀 伍助さんと、杉村さんな、遊びにやいかんとなあ?
番頭二 なあに、あの二人は、夕飯はかっこみ、かつこみ、とっくの昔にとび出して行きましたたい。

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お銀、番頭一、仲蔵が笑う。
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仲蔵 (奥へ向いて)五郎しゃん、さあ、行きまつしう。
五郎 あ、あい。

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カタカタカタと小さい下駄の音をさせて出てくる。
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仲蔵 五郎さんば、いっときお借りしまつす。
お銀 そりゃあ、よかばってん、この子ば妙な所へ連れてって酒なんぞ飲ませるのは、よしにしてくんなさいよ。
仲蔵 へへ、そんな……。そいじゃ行ってきまつす。さ、五郎さん。

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カタカタカタカタと二人が歩み去って行く。
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お銀 (それを見送りながら)ばってんが、馴染みの芸者の所へ久しぶりに行くちゆうのに、テレくさかちうて、ああして、そのたんびに五郎ば連れて行く若い衆さんじゃけんなあ、むぞらしかねえ! ハハハハ。

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番頭一、二、笑う。
夜の大川の水の上に突出すように立てられた料亭の奥座敷に、芸者のおよねと仲蔵と五郎の三人。
いきなりしっかりしたねじめの三味線の音が響き始めて、およねの歌。博多節。
これらの歌声も、すべての物音も、この場では、満潮の大川の水面に反響する。
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およね 博多帯しめ
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筑前しぼり、筑前博多の帯を締め
歩む姿が、ありゃどっこいしよ
柳腰
お月さんがチョイと出て松のかげ
はい今晩は。
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仲蔵 はい今晩は、か。およねしゃん、あんたも、ひとつ飲みない。(卓上の盃を取って出す)
およね (三味線をわきに置きつつ)あたしは無調法ですけん、仲さん、もっと……(と酌をする)
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