っちへ渡すのは初めてでがんす。どうぞよろしう!
伍助 伍助でございやす!
杉村 杉村というもんで!
お銀 あいあい。あいさつは後で、ゆっくりしまつしう。まあまあ!
五郎 (チヤッチヤッと水の中にふみこみながら)仲しゃん、よう来たない!
仲蔵 わあ五郎しゃん、しばらく見ないうちに又大きうなってしもうたあ! 中学校はどうなさったとなあ?
五郎 もう二年生たあ。
仲蔵 二年生かあ、そうですかい!
お銀 これこれ五郎、お前、はだかになってしもうて川ん中へ飛び込うで、なにをすっとな、危なか!
五郎 ばってん、すぐ水あげにかかっとでっしう?
お銀 なあに、まあ一休みしてからにすつだ!
仲蔵 うんにゃ、お神さま、ちょうど番頭さんや男衆もいてござるけん、ついでに板とヌキだけは直ぐに水あげしてしまいまつす。一日置きや一日だけ重うなるだけじゃけん! 皆の衆、頼んだぞう!
[#ここから3字下げ]
番頭や人夫たち、それに伍助と杉村などが「おうっ!」と答えチヤチヤチヤと水あげの音。
その中にひときわ甲高かに聞える五郎の掛け声。
お銀がカラカラと男のように笑う。
ナタで、板やヌキをしばってあるツタをストンストンと叩き切る音。手カギをガツと材木に打ち込んで引きよせる響。
それにつれてジャブ、ジャブザブンと水の音。
人々の掛け声とはやす声。
それに混って佐賀という中都市の午前の物音。
道を通る自転車、荷車、遠くの工場のボーなど。
それらの音がしずまり、夕暮れの山形材木店の店先の風景になる。
店の前の道路を、通りすぎてゆく下駄の音。番頭二がそこらに水をまいている音。
[#ここで字下げ終わり]
通行人 あい、お晩で。
番頭二 お晩で。
[#ここから3字下げ]
その店の奥の土間から、カタカタと下駄の音をたてて出てくる仲蔵。
[#ここで字下げ終わり]
仲蔵 ああ、風呂にもいれてもろたし、久しぶりに佐賀の酒も飲んだ。やっぱしお神さま、日田の山奥の地酒よりや、町の酒はうめえです。
お銀 (帳場に坐ってソロバンの音をさせながら)相憎とうちのおやじは、博多の方へ入札に出掛けておって、酒の相手がなかけんなあ。
番頭一 なあに、仲蔵さんなあ、これから柳町へ出掛けて、酒の相手なら、いくらでもキレイな人の待っておらすけん、ハハハハ。
仲蔵 そ、そ、そんな、番頭さん……
お銀 ハハハハハ、なあに、仲さんよ、若かとき
前へ
次へ
全20ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング