ダメ! 先生にや、私の家の人たちのこと、わかんないの。先生だけで無く、誰にだつてわかるもんですか。あの人たちはみんなキチガイよ」
「……そいで今君はどこに住んでいる?」
「お友だちんとこ」
「R劇團の方は?」
「やめちやつた」
ケロケロした調子だ、私はしばらく默つていてから、すこし思い切つて、
「君が家に殘して行つた置手紙を、小松さんが持つて來て、僕にも讀ましてくれたよ」
と言つて、ルリの顏を見ていた。
「ふん」と低く言つて、眼は伏せないで默つている。
「……ぜんたい、どんな事があつたの、貴島君と――」
返事は無い。表情もほとんど變らない。ただ、耳の附根の邊からパーッと見る見るうちに血が走つて、顏がまつ赤になつた。まるで、夕立ちが近よつて來るようだ。目がさめるようだつた。私を見つめている兩眼が急に大きくなり、やがて、その兩眼から、まるで集つて來た血を濾過でもしたような調子に大粒の涙の玉が一つずつ、ポロリと出た。それでも怒つたように口を開かない。そのうちに、今度はスーッといつぺんに血が引いて、眞青になつた。腦貧血かなにか、そのまま倒れるのではないかという氣がした。私がめんくらつて、
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