してつて、君が家出をして何處へ行つたかわからんから」
「ふーん。そう?」
「なんでもお母さんは苦に病んで寢こんでいられるそうだ。實は僕も、君を搜していた。……どんな事情だか僕にはわからんけど、一度家に歸つたらどうかな?」
「歸らないの家には、もう」
 アッサリ言つて、窓の外を見た。ちようど電車はその高圓寺邊を走つていたが、彼女の顏には別に變つた表情は現われない。それを見ていて、今にわかに家に歸ることをすすめても、なんの效果も無いだろうと言う氣が私にした。
「どうしてだろう?」
「ううん、ただ家には居たくないの。お母さまが寢ついているんだつて――そうね。やつぱり心配はなすつているでしようけど、私のことでじや無いのよ。いえ、そりや私の事についてじやあるにはあつても、この私、つまり此處にこうしている私という人間――つまり、そのためじや無い。うまく言えないんだけど――それがお母さまや姉さまや義兄さんなのよ。先生にや、わかんないわ」
「しかし、とにかく心配なさつている事は事實だし、別に大したわけが無いんだつたら、一度歸つて、よく話してから又出るようにしたらどうだろう?」
「フフフ」明るく笑つて「
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