しく、すぐにもう横になつていて、佐々が身仕度しながら、工場のことや爭議のことを言つて、「ひと寢入りしたら、直ぐに行かなきやダメだよ!」とブツクサ言つても、「うん、うん」と答えるだけで、もう半分眠りかけて、くつつきそうなマブタをしていた。
私と佐々は驛まで歩き、電車に乘つた。
その電車が發車して間も無く、うしろから私の背をこずく者があるので、なんの氣も無しにその方を見て、おおと言つてしまつた。綿貫ルリだつた。紺ガスリの筒袖にモンペを着て、ニコニコして立つている。まるで何のことも無かつたような顏色だつた。
「どちらへ、先生?」
「どちらへつて、君……君は、どうしたの?」
「まるきり、氣がつかないのね。ズーッと私、うしろから附けて來たのに、フフ!」
「つけて來た? 僕をかね?」
「うん。驛の前から」
「……そいで、君は、ズッと、どこに居たんだ?」
「驛の前よ、だから」
「そうじや無いんだ。全體こないだから――」
「驛のすぐ前に小さい喫茶店があるでしよ。あすこで見ていたのよ。そしたら先生いらしたから、追いかけて來たんだわ」
「すると、なにかね、君あ喫茶店に勤めるようになつたのか?」
「うう
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