かけながら體操をする。その間に、久保は炊事の水を汲みに附近の井戸へでも行くのか、バケツをさげてノソノソと姿を消す。すべてが、軍隊の野營地に於ける生活の延長のような感じである。薄曇りの五月の晝前の、あたり一面荒れ果てた燒跡の中で、それが又ピッタリと至極あたりまえの感じだつた。佐々の體操も明らかに軍隊でおぼえて來たもので、毎朝これをやるらしい。カラリと痩せた裸體だが、四肢の筋肉がよく發達していて、兩腕をふりまわしたり脚をひろげたり飛びあがつたりするたびに、すこし青白い皮膚の下で筋肉が面白いようにグリグリ動く。それをしばらく眺めていてから、私は歸る氣になつてそう言うと、いつしよに朝飯を食つて行けと言う。べつに心にも無いお世辭を言つている風は無い。
「だけど、ごつつおはありませんよ。おい久保お!」と體操の手はやめないままで、バケツをさげて戻つて來た久保に呼びかけ「おかずは無えんだろ? ひとつ走りなんか買つて來いよ。ゼニは俺のポケットにある。その間にメシはたいとく」「そうかあ」「早くしろよ」「おう!」それで久保が使いに行き、佐々が體操をやめて七輪に火を燃しつける。そうしながらも、私に話しかける。
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