貴島勉が、この二人との生活の中で、どのような位置を占めているのか、ハッキリとは、わからなかつた。しかし二人の話の中にチラチラ出て來る貴島についての言葉を綜合すると、貴島という人間が、一個の人格としてはほとんど捕捉することの出來ない位にシリメツレツに混亂し切つており、兇暴で異樣なものになつていながら、一面何か頑是の無い子供のようにひ弱で單純な所も有る人間であることがわかつて來た。佐々も久保も、その貴島の兇暴さのようなものを憎みながら、その子供らしい所を憐れみハラハラして見ているようである。一言に言つて、佐々と久保が、その全く違つた性格と生き方の、それぞれのやり方でもつて非常に強く貴島にむすばれているらしい事が、だんだん私にわかつて來たのである。
それは實に妙な一夜であつた。
暗い穴の底に横たわりながら、二時間も三時間もぶつつづけて、今の時代と社會について、ほとんど齒をむき出さんばかりの毒々しい言葉でもつて論爭している二人の青年。それを眠つたふりをして聞いている自分。あああ、これが一體夢でもなんでも無い、現代の正《しよう》の事であろうか?………ヒョット、これが戰線に於ける塹壕の中で、
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