つは豚の實證主義だ。そうじやないか、豚は食物をやらないで置くと、世界中に食物がまるで無くなつたと思つてギイギイ騷ぐ。鼻先に一つかみの食物をほうつてやると、世界中に食物が滿ちあふれていると思つて有頂天になるんだ」と佐々にののしられても、彼はケロリとしている。自分の工場に於ける爭議にも參加していて、經營管理への動きの中でも組合員としてサボつたりはしない。しかしカッカとなつて積極的になることも無い。冷然として皆の動くように動いているが、ヒヨイと自分が家にでも歸りたくなると誰にも言わないでノコノコ歸つてしまう。それで、もうそれきり爭議團の方へ行かないかと思うと、又平然として戻つて行つている。そんな調子らしい。今もその事を佐々が言い立てて、イライラといきり立つて詰め寄つて行くのだつた。すると、しばらく眞面目に議論の相手になつているが、論爭のピッチがあがつて來て、決定的な所へ來たトタンに、變なトボケた聲を出すので何だと思うと、なんとかなんとかで「カヌシャマヨウ!」と、オキナワかどこかでおばえて來た歌を低く鼻歌でやつていたりする。すると佐々が怒り出してベラベラと罵倒する…………果てしが無かつた。
 
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