ていた。そして、あと半年か一年すれば、この日本に革命政府が樹立されるという事を彼が完全に信じ切つているという事を私が知つた時には、その信念の純粹さと美しさと、同時に空虚さと子供らしさに、闇の中で私の目から涙が出そうになつた。
久保正三のことは、既に書いた。それ以上のことをいくら書きたしてみても、既に書いた以上のことは彼についてわからないであろう。言葉を代えて言えば、だから、はじめから此の男はそのありのままがわかつているとも言えるわけだ。いくら正體を掴もうと思つて追求して見ても掴まれない、奧底の知れないような人柄だという氣がするのは、こちら側の思いすごしであつて、久保自身は、自分のありのままの姿をいつでもさらけ出しているらしいのである。その點は貴島勉に似ている。がしかし、貴島のように薄氣味の惡いような所が此の男には無い。もつと平凡だ。明るくポカンとした感じである。そして、ほとんど絶對に昂奮しない。佐々との議論で彼の方は割に無口で、佐々が三ことを言うのに彼は一ことぐらいしか口を開かないし、言葉の内容も佐々が攻撃的であればあるほど彼は防禦的であるが、その攻撃的な佐々の言葉でどんなに激しく刺
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