ては、すこし――毛色が變つていることが多い。だから今度の事を左までに異樣なことには感じていない。しかしそれでいながら、二三日前のルリの失踪(?)に續いて今日半日の私の見聞の中に、何か妙に私のどこかをおびやかすようなものがある。しかも私の眼に見、耳に聞き得るのは、事件や人物の極く僅かの露頭だけであつて、事件や人物の全貌は、氷山に於けるがように、水面下にかくされている。いやもちろん世の中の事一切が或る程度まで、そうであるには違い無い。しかし今の場合は、これがすこし甚だし過ぎる。私が疲れたのも、そのためらしい。しかもそれらの全貌をいくらか明らかにし得たとしても、そこから別に何の得る所も無いだろう。ルリの事にしたつて、彼女も既に子供では無し、私との間に特殊の關係が在るわけでも無いのだ。私などが何をガチャガチャと騷ぐことがあろう。……そう思いながら、しかし完全にはそう思いきれないモヤモヤした氣持で、あおむけに寢て、毛布をアゴの所まで引き上げて、ボンヤリとしたロウソクの光に照らされた壕の天井のコンクリートの面の雨じみを見ていた。その間に、私はグッスリと眠りこんでしまつたらしい。

 何か激しい人聲
前へ 次へ
全388ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング