で眼をさました。私は一瞬、自分がどこに居るのか、わからなかつた。暗い中で息がつまりかけているような氣がした。鋭い恐怖が來て、次ぎにホントに眼がさめて、ああそうだつたと思つた。同時に、
「そうだよ、貴島は幽靈だよ! しかし君は幽靈よりや惡い。豚だ!」
と言う聲が、天井のへんから聞えた。私には、はじめての聲だつた。暗いからよく見えないが、寢床の上段に寢た男が、寢たままで言つているようだ。後でわかつたが、それが佐々兼武だつた。私が眠つている間に歸つて來たらしい。氣配で貴島は、歸つて來ていない事がすぐわかつた。語氣から推すと、もうかなり前から言い合つているようだつた。私の眠りをさまさせないためらしい、押し殺した低い聲である。しかし、四邊が靜かなのと、壕の中であるため、ガンガンとひびく。
「豚だろうと、ケエロだろうと、いいさ。俺あ、てめえがわからねえから、わからねえと言つてるまでだ」
ユックリした聲で、やつぱり暗くて見えない下の段から久保が言つた。
「ケエロ? ケエロたあ、なんだ」
「ケエロさあ」
「蛙か。…………フフ」
それまで怒つていた佐々の聲が、短かく笑つた。しかし久保はそれに乘つて
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