ヘッヘヘ、なにさ、三好のスローモーション、鈍重、チェッ! もしかして、おとついのブウブウでやられたんじやないかと思つて、來てみた。いいよ、いいよ、そんだけだ。生きてりや、それでいいんだよ。いいよ。なに、あがつちやおれん。忙しいんだ。ヘヘ、これから、その兵隊を――と(背後の男の姿を指して)洗禮を受けに連れて行かなきやならんからなあ。あばよ。バイバイ」と、醉つてはいても、永年舞臺できたえた、語尾のハッキリとネバリのある美しい聲でわめき立てて、風のように歸つてしまつた。この男の癖で、こちらで何かを言つている暇は無かつた。……たしか、「洗禮」と言つた。なんの事だかよくわからなかつたけれど、しかし直ぐ續いて起つた空襲騷ぎのために、それも忘れてしまつていた……
「そう。それは――そいで、君は陸軍? 海軍?」
「海軍でした」
「Mとは、なにか、お弟子さん? いや、俳優になりたいと言つたような――?」
「いえ。……前に、小説みたいなもの書いていて、シナリオをやつてみたくなつて、そいで友人に紹介してもらつてMさんに――でも、半年ぐらいでした、つき合つていただいたのは。……でも、とても、かわいがつてもらつ
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