かなあ」と言つてやがてビックリする位の大あくびをした。
取りつく島は無い。あきらめて私は室の隅に横になつた。それを見ると久保は、ノソリと立ちあがつて、自分の寢床に敷いてある毛布の一枚を取つて私に貸してくれた。そして彼自身も、その二段に押入れのようになつた下の段にもぐりこみ、腹ばいになつて、ポケットから出した手帳に又なにか書きこみはじめた。同じような黒つぽい、よごれた手帳が、ロウソクの立ててある石油箱の中に二三十册ギッシリとそろえて入れてあるのに私は、ズット前から目をつけていた。
「君はそうやつて、何を書いているの?」と試みにたずねて見たが、「やあ」と薄笑いを浮べただけで相手にならなかつた。
それがやつぱり一種の日記のようなものであることを私が知つたのは、その次ぎの日の朝になつてからだ。水汲みと朝食のオカズを買いに彼が出て行つたあと、「久保君は手帳に何を書いているんですか?」と私が質問したのに、佐々兼武がニヤニヤ笑いながら默つて久保の上衣のポケットからその手帳を拔いて見せてくれたのである。普通の日記とはすこし違つている。自身のその日の生活やそれに伴う感想などはほとんど書いて無い。自分
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