のである。以前私が勞働組合運動に出入りしていた頃に附き合つた自由勞働者などの中に、ややこれに似た男が時々居たが、それともすこし違うようである。後でわかつた事だが、これは貴島に對しても佐々に對しても、その他のどんな人間に對しても同じだつた。茶を呑み、タバコをふかしながら、ズングリムックリとアグラを組んで坐つて、すましている。
私は貴島や佐々や、貴島の生活や仕事や、久保自身のことを、ボツボツたずね、それにはチャンと返事をするが、深い事はなんにもわからない。岩を撫でているようなものである。何かをすこし突込んで聞くと「さあ、俺あ知りませんねえ」と言う。「いやさ、君の考えでは、そこんとこは、どんなふうになつていると思うだろうか?」といつた風に追いかけると、「わからんなあ」「いや、君が想像して見てさ」「想像なんか、できんなあ」
私もアグネてしまつた。夜も更けて來たし、貴島の歸つて來るらしい氣配は無い。今夜は此處に泊る以外に無いらしい。
「貴島君が、人を搜したりする事の上手な人といつしよに暮していると言つていたが、君のことかな?」と私がたずねると、
「さあ。そいつは、佐々のことを言つたんじやない
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