無い」
「フフ、そんな君、いつでもきたなくしとくとはきまつて無いさ」
「いいわよ。そいぢや、貴島さんにそう言つといてね。このままにしてうつちやりつぱなしじや、あんまりひどい。宙ぶらりんで私どうしていいかわかんないから、とにかく一度逢つてちようだいつて。よくそう言つといてね。こいでもあんた、ただのチンピラの娘つ子とは違うんですからね。ホホ!」と不意に花が開くように笑つて、私の方へ色つぽい目禮をしてから、踊りの手のような身のこなしで階段に足をかけてヒラリと消えたかと思うと、
「あのね!」と今度は、暗い中から顏だけを、さかさまにのぞけ、白いアゴで室の隅にぶらさがつているカーキ色のズボンを指して「久保さん、それあんたんでしよ? ホコロビ縫つといたげたわよ」
言うなり、顏はスッと消えて、たちまち燒跡を踏むゾウリの音と、それに合わせて低い鼻歌のブルースが遠ざかつて行つた。
「ありがとう」それを追つて言つた言葉がわれながら間が拔けておかしくなつたのか、久保はまだパンを頬張つている顏でニヤニヤ笑つた。
「いいのかね、女一人で今じぶん?」
「いいですよ。それ位のことでビクビクするような女じや無い」
「
前へ
次へ
全388ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング