てクスリと笑つた染子は、それまで指先でいじつていた線香の燃え殘りを鼻先に持つて行きながら、私の方へ流し眼をくれた。
「んだけど、染子さんは、ここへ來るたんびに、どうしてそんなもの燃すんだい?」
「だつて、良い匂いじやなくつて?」
「そりやそうだけど、でも、今どき、そんなもん高えんだろ?」
「フフ。貴島さんね、いろんな匂いが、とても氣になるのよ」
「そうかなあ」
「氣が附かないのあんた、いつしよに住んでいて?」
「……すると、貴島のために燃すんだね? そうかあ」
「そいじや、あたし、歸ろうつと!」言いながら手を使わないでスラリと立ちあがつた。狹い場所なので、立ちあがつた女の着物のスソがめくれてフクラハギのへんまでが、鼻の先に見えてしまう。變だと思つたら、この女は下着を一切つけないで、キンシャの着物を素肌にじかに着ているようだ。
「せつかく來たんだから、もうすこし待つて見りやいいのに」
「だつて、どうせ今夜も歸つて來ないんでしよ。いいわ、又來る。こいからホールへ行つて見る」
「お茶でも入れようと思つてたのに」
「久保さんが? ハハハ、そりやこつちで願いさげだ。何を飮まされるか知れたもんじや
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