どうだつていいらしいんだ貴島には。そんな男ですよ」
「……貴島君が女好きだつて、さつき、君言つてたね?」
「そうですよ。女の尻ばつかり追つかけてる」
「……最近、なにか、そう言つた話はしてなかつたかなあ?」
「なんですか?」
「ルリと言う――本名は芙佐子と言うんだけどね?」
「聞きませんねえ。大體、あいつはそんな話はメッタにしません。ただね、いつしよに歩いたり、電車に乘つたりしていて若い女に出會うと、時々その女とすれちがつたトタンに、僕なんぞ、うつちやつといて一人でドンドンその女の後をつけて行つてしまう事があるんです。フフ。どう言うんですかねえ。そつから先きは、僕にやわからん」
對話がそこまで運んだ時に、私たちは、荻窪の驛から八九丁も歩いたろう、土地がすこしダラダラと窪地になつたふうの燒跡に出ていた。暗くてよくわからないけれど、所々に白く見える石塀の殘りや草の間の敷石などから推して、かなり立派だつた屋敷跡のようだ。
「ここです」と言つて久保が立ちどまつたので、そのへんを見まわしたが、近くに建物らしい物は無い。變に思つて彼の顏をすかして見ると、久保はその一廓の隅の方へ眼をやりながら鼻を
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