ら電車の中で一度、胸のポケットから小さな手帳を取り出して、鉛筆で何か書きこんで、すぐにポケットにしまいこんで、知らん顏をしていた。以下は、荻窪の彼等の住いに着くまでに、私と久保が歩いたり電車に乘つたりしながら、トギレトギレに取りかわした會話である。
「荻窪の家は、君と貴島君と二人で住んでいるの?」
「ええ。でも佐々がしよつちう來て泊るから、實際は三人だ。いや、そうだな、貴島はメッタに歸つて來ないで、貴島の寢床で佐々がたいがい寢るから、やつぱり二人か。フフフ」
「佐々君と言うのは、さつき君たちが話していた人?」
「そうです」
「共産黨員かなんか?」
「そうのようですね。Gと言う、變なバクロ雜誌の編集しています」
「すると貴島君も共産黨となんかつながりが有るんですか?」
「さあ――あれはゴロツキの子分でしよ」
「…………家にめつたに歸つて來ないと言うのは、すると、どこに行つてるんだろう?」
「黒田の方の仕事をしてない時は、たいがいダンスホールだとかレヴュだとか、上野だとかラクチョウなぞに居るんじやないかな。女好きですからね奴さん」
「君と貴島君、それから佐々君と言う人など、どういう知り合い
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