無ければ、是非そうしてください」
すぐに私もその氣になつた。ルリの事もあつた。今夜、とにかく貴島の住いをハッキリと突きとめて置くのは無駄では無い。いつたん別れてしまうと、いつ又彼を捕えることができるかわからないような氣がする。そういう感じがこの男にある。めんどうだがしかたが無い。
それで、もうしばらく此處に居てから横濱へ行くと言う貴島を殘して、久保正三と私の二人は連れ立つてそこを出た。久保は、私を案内して行きながらも、荻窪に着いてからも、實に淡淡として私に對した。冷淡と言うのでは無いが、わきに居る私をほとんど氣にかけていないようである。私の方から話しかけないと、自分の方からはなんにも言い出さない。小ぶとりで背が低く、顏が盆のように丸く、胴や手足もプリッと丸味を持つている。だから全體がおかしい位に丸く見える。それが、板裏ぞうりをペタリペタリと鳴らしながら私と並んで歩きながら、田舍出の學生のようにキマジメな眼でユックリとあちらを見たりこちらを見たりして行く。空氣のように平凡で、どこにでも居るし、どこに居ても誰の目にもつかない人柄である。ただ、省線の驛で電車を待つている時に一度と、それか
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