ん、佐々は、ここんとこ毎日のように俺の會社に來てるんだよ。經營管理なんて、みんな騷いでいるから、組合の幹部なぞと年中逢つてる。種取りだろ」
「黨から何か言いつかつてるんじやないかね?」
「それもあるかなあ。よく知らん」
「そいで君んとこの爭議は、どんな模樣なんだ?」
「ダメだね、みんなワイワイ騷ぐばかりで」
「しかし、お前、そうやつて出て來ちやつていいのか?」
「うむ、食い物が無くなつちやつたしなあ。俺のカマも二三日前に、とうとう火を落しちやつた。サランパンだあ。こいから荻窪へもどつて、なんか食つて寢るんだ」
「そうか」と貴島は言つてから、しばらく默つて考えていたが、やがて私をかえり見て、
「どうでしよう、これから荻窪へ行つてくださらんでしようか? 僕は横濱までチョット行つて、今夜中にはもどりますから。ちようど、いいところへ久保が來たんで、いつしよに――」と、そこまで言つて笑いながら、男に向つて、私の名を言つて紹介してから「これは久保正三と言つて、僕といつしよに暮している友だちです」
 男は、かねて私の名を貴島から聞かされていたものと見えて、默つてペコリと頭をさげた。
「おさしつかえが
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