されなかつたでしようか」
「聞かない」
「そうですか。………父は、古い軍人です。後備の陸軍少將で――もう死にました」
「そう………」私にこの男の人がらがいくらか腑に落ちるような氣がしてきた。「で、僕にたずねたいと言うのは?」
「はあ、Mさんの事です」
「Mの事?」
「直接Mさんの事と言うより、なんと言いますか、Mさんに關係の有る、つまり友達の人のことやなんかを知りたくつて實は先日もあがつたのですけど、ツイ言いそびれてしまつたもんで――」
 はにかんだような色を浮べて、どもるように言つている彼を見ていて私は、そこまで言つている彼の頭に綿貫ルリの事が來ていない筈は無い、それをわざと避けて語つていると思つた。すると、ムラッとなにか意地の惡い氣持になつた。
「そりや私の知つている事ならいつでも話してあげるけど……綿貫君のことねえ」
「…………?」
「こないだ僕んとこでいつしよだつたルリ。あれの事で僕あ今日來たんだけどね」
「はあ、こないだ送つて行きました」
「知らんだろうか君は?」
「なんでしよう?……あの晩送つて行つて、もうすぐそこが家だからとあの人が言うもんですから、別れたんですが――」け
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