ん、センイ類や藥品などの仲介と言いますか……小さなもので。なんでも扱つて金もうけをしようと言つた――いいかげんなものです」
「社長というのは?」
「黒田という人です。今居ると會つていただくんですけど。……たいがい横濱なんです」
「……しかし、こうしてここで話していて、いいの? なんなら外に出ようか?」
「いいんですよ。ほかに誰も居ません。いやホントは外に出てお茶でも差しあげたいんですけど、間も無く實は人が來て、それといつしよに出かける約束になつているもんですから、失禮ですけど此處で――」
「いいんだ、僕はいいんだ。……だけど、君はどうして此處で働らくように――?」
「ほかに、なんと言つて食えないもんですから……。社長を知つているもんで、ホンの腰かけです。黒田と言うのは、もと上海で軍の特務機關の仕事をしていた、おもしろい人間ですよ」
 無邪氣にスラスラと言う。
「特務機關?……どうして君は知つているんです?」
「父の關係です。父が以前めんどうを見てやつていた男で、一種のまあ子分と言つたような――」
「君のお父さんと言うと?」
「………?」逆にいぶかしそうな眼をして彼は私を見た。「Mさん話
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