えなかつたもんで――」
「いや…………すると、こないだは、なにか?」
「いいえ、いろんな、この、聞いていただいたり……、そいから、おたずねしたい事などあつて伺つたのが、なんにも言えなかつたもんですから――しかし今日は、よく……」私がわざわざ訪ねて來たことを言つて、うれしそうな顏である。拍子ぬけのするような素直さであつた。「すぐわかりましたか? なんしろ完全に燒けちまつた所で、こんなチッポケな建物ですから」
「ずいぶん搜した。……實は晝間一度來たんだけど誰も居ないようですね」
「そうですか。そりや……みんな出拂つていて僕も用たしに出かけていたもんですから。失敬しました。……全部で五六人しきや居ないもんですから、よくそういう事があるんです」微笑しながら言う樣子が、先程の國友とのことを萬一にも私が見たのではないかとチラリとでも思つているらしいところは無い。
「どういう仕事をしているの?」
「ここですか? 一種の請負業みたいなもんです。横濱の方に運送だとか荷役などの店を以前からやつていまして、人手が相當動かせるもんですから。そいで東京のここへ出て來て、いえ、こつちでは運送の請負だけじやありませ
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