め近縣で飜譯などをして暮しているが、それでは到底生活が立たぬため、こうして働きはじめたが、働らいて見ると、この方が結局氣樂なため、近ごろでは自分一人東京に出つきりになり、此の家に住み込んでやつていて、夫や子供の所へは月に一二囘もどるだけと言う。
「時々これでも又芝居がやりたくなる事があるの。妙じやありませんか、夜寢ていてね、舞臺に出る前になつてセリフを胴忘れちまつた夢などを見て、うなされて、汗びつしよりになつたりする事が、いまだにあるんだから。ホホ、芝居と言うものは、まるで麻藥みたいなもんね。いつたん、取つつかれると、まるで骨がらみになつてしまうの。だけど、もうダメね私なんか。世間がこんなふうになつて來ると、もう良い芝居なんか第一經濟的に成り立たないと言うしね、こうなれば、なんでもいいから食いつないで、食い拔けて行くだけで精一杯だわね。それに、何てつたつて、人間が生きて、――チャンと生きて行つた上での藝術じや無くつて? 自分が食えなくたつて、妻子が飢えたつて演劇のためなら、なんて熱は無くなつちやつた。また、そんな熱は、今こんな有樣の最中では、まちがつていると思うのよ」
そんな事を言う
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