いては、まあ久子の家に優先權が有る。それを相手のオヤジの方で、いつの間にか段々に自分の田の方へ利用する程度を多くして行つたようで、それに反抗して久子が鍬を持ち出して水路を作りなおしてしまつたらしい。今度がはじめての事では無く、かなり以前から同じような紛爭をつづけている樣子。このへんのような山がかりの田畑では、農家にとつて水の事が如何に重大なことであるかと言う事は、僕にもわかる。しかし二人の喧嘩の調子は、ただそれだけにしては、あまりに激しいし、双方の根にあるものがドギツすぎるように思つた。その事情は、後になつて、わかつた。
久子が山内杉雄と結婚したのは、戰爭中、東京に於てで、當時、久子は或る映畫俳優養成所に入所したばかりの研究生で(Mさんは、そこの講師の一人で、數多くの研究生の中で、久子の素質に注目し、特に目をかけてくれた由、後になり久子さんから聞きました)山内杉雄と戀愛に落ち、養成所をやめて結婚するや、いつたん二人は山梨縣に歸り、間も無く滿洲の開拓團に入團するため(山内杉雄は電氣の技術家で、直接農耕よりも農村電化の仕事に抱負を持つており、それの實現のため滿洲の開拓地を望んだ)一人の母
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