ず、いきなり凄い顏で中年の百姓を振り返ると、
「うるせえよつ! おらんとこのヨウスイロを、おらが直すのに、なんの文句が、有るけ!」と、どなりつけた。
それに對し、中年の百姓がノドを鳴らすようにして食つてかかり、たちまち二人の間で猛烈な口喧嘩が始まつたには驚いた。さあそれから兩方でガアガア、ガアガアと、相手の言う事などほとんど耳に入れようとせず、今にもなぐり合いが始まらんばかり。言つている事は、僕には、よくわからない。兩方とも方言で、それに恐ろしい早口だし、たとえ意味がわかつたとしても、とても書けるものでは無い。野卑で、聞いていられない。特に久子が「あにを、言やがんだつ!」と叫んだりしている口のハタに、ツバキのアワをくつつけたりしている顏と言つたら、女であるために、かえつて、あさましくて、見ていられない。女が男を相手に、こんなに猛烈にやり合う姿を僕は初めて見た。
兩方の罵聲の中から切れ切れの言葉を拾つて總合して見ると、畑か水田への灌漑用の水路の事らしい。久子の家の水路と相手のオヤジのタンボへの水路が一部共同になつているらしく、それが、もともと、久子の家で開いた水口で、この水の使用につ
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