無いイロリのそばに、小さい子供を抱いた老婆が坐つている。それに向つて言葉をかけたが、いつまでたつても返事が無い。
「山内さんはこちらでしようか?」
「はい……?」
「久子さんは、おいででしようか?」
「うん?」
そうだとも、そうで無いとも言わないで、暗い中から、いつまでも此方を見ている。しかたが無いので「東京から久子さんをたずねて來てこれこれと言うもので」と言う。しかし老婆はマジリマジリとして、眠りこけているらしい幼兒を膝の上で時々ゆするだけ。耳が遠いか、事によると氣が變なのではないか。……困つていると、しばらくしてから、ブツブツと寢ぼけたような言い方で、
「そいで、お前さま、なにかね……久子になにか用かや?……どんな用だ?……うむ。久子は今居ねえが、お前さま、久子にどんな用があんなさるかや?」
どんな用かと言われてもチョット答えようが無いので、言いしぶつていると、
「……お前さま、杉雄の朋輩かね?」と言う。
――後でわかつたが、杉雄と言うのが、この老婆の一人息子で、そして久子の夫であつた。だからこの老婆は久子のシウトメで、その膝の上の幼兒は山内杉雄と久子の間の子供であり、老婆に
前へ
次へ
全388ページ中311ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング