るという所なのに通行人もほとんど無し、土地の人のバラック住宅もまだ建つていないので、人にたずねようも無い。しかたなく、次ぎ次ぎとその邊中の燒け殘りの建物の前に立つたり、それをグルリと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つたり、階段をあがつてみたりして、一時間ばかりも搜した末に、やつと、コンクリートの側面全部が火にあぶられて薄桃色にこげたビルディングの二階に、それらしい事務所を見つけだした。ドアのわきにさがつている木札にD―商事會社とある。名刺にはD―興業株式會社と印刷してあるので、多少心もとないが、D―と言う名は同じなので、ともかくと思い、ドアを開けようとしたが、開かない。ノックをしても、誰も出て來なかつた。内部に人の氣配が無い。他に、ほかの事務所か、又は管理人の室でもあるかと思い、廊下をあちこちして階下へも降り、行ける所へは全部行つて見たが、人一人居なかつた。廊下の突き當りに、階上にあがる階段が有るから、あがつて行きかけると中途に、こわれかかつた椅子やテーブルを積み上げて遮斷してあつたり、木札のかかつたドアが有るから開けようとすると釘付けになつていたり、反對に、ドアもなにも無い
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