言つた、なん[#「なん」に傍点]です……いつさい親戚づきあいはしない――つまり義絶と言つた……ですから、まあ――いえ、念のため私、みな寄つて見るには見ましたが、やつぱり、ズット見かけない――」
「そうですか。ようござんす。とにかく私にできるだけ、搜してみましよう」
「それでは、どうか、よろしく……もしなん[#「なん」に傍点]でしたら、私の勤務先の方へお電話をいただければ―」そう言つて小松敏喬は或る官廳の寺社關係の部課名と電話番號を書いた名刺を、ルリの置手紙の上にのせて、席を立つた。
彼を送り出すと、私はすぐに貴島がくれた名刺をさがし出して、そこに書いてあるD興業株式會社の所番地の大體の見當を地圖でしらべた。住んでいるのは荻窪だと言つていたが、名刺にはそれは書いてないから、さしあたり、その會社に行つて見る以外に無い。私は、仕度をして家を出た。
電車を乘りつぎ、約一時間後――午後おそく、私はその日本橋R町の瓦礫の中に立つていた。あたり一面燒け落ちてしまつた中に、コンクリート建てのビルディングや土藏などの殘骸がポツリポツリと立つている。番號も書き出してないし、三四丁行けば繁華な街に出られ
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