で百姓をしている久ちやん」などと言つていましたが、それがいつ頃の知識なのか、――或いは終戰後の現在のことかも知れないが、――ただ人づてに聞いた噂話だつたのか。いずれにしても、多少は何か聞けた筈なのに、景子に會わずに僕は出かけてしまつたのです。しかし、僕はこの自分の輕率さを今となつては、後悔していません。なぜと言うと、あの女で無いと言うことは、久子という人に會つて二つ三つ話をしたら直ぐにわかつた位で……つまり、あの女を搜すという目的から言えば全くムダな失敗を演じたわけなんですが、そんな事よりも、もつと大きな――どう言えばよいか、得るところが有つた……いや、こんな言い方では、うまく僕の氣持は言い現わせません。何か、とにかく、何かを見た。そうです、何かとしか言えない。なぜなら、それが何であるか、その中にどんな意味があるのか、僕にもまだわからないからです。とにかく、その結果――いや、結果と言うと變ですけれど、そういう事のために、僕は又現在こうして久子さんの家に居るわけなんです。
それを、カンタンに書いて見ます。
37[#「37」は縦中横]
中央線のN驛で汽車を降りて、そ
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