りも、もつと卑屈なズルい耻知らずの無智な動物は、當の自分の方だという氣がしてくる事である。すると、いけない。ムカムカして口をきくのがイヤになり、そのへんの物をみんなひつくり返して、相手の前から立ちあがつて、室の外へ、戸外へ、誰も知つた人間のいない所へ、できれば人間なんかのいない所へ行つてしまいたくなる。
とくに、その相手がインテリゲンチャ、なかんずく作家だとか批評家の場合は、この現象が最も甚だしかつた。無理にがまんしていると、私の胸の中はおそろしくこぐらかつた。それだけにどうにも拂いのけることのできない憎惡のために、まつ黒にくすぶつてくるのであつた。
だから、なるべく人に會わぬようにしていた。そして、たいがいの時間を、青い顏をして一人でボンヤリ坐つていた。遠い所を訪ねてきた人には氣の毒なような氣がしないことも無いが、しかし實を言うと、人の事などシミジミ氣の毒と思つたりする餘裕は無かつた。一番氣の毒なのは自分だつたのだ。
それでいて、人を見ないでは、私は一日も居られない。二三日人に會わないでいると飢えたようになつてくる。遂に耐えきれなくなると、室を飛び出して街のあちこちをウロつき歩
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