て私を訪れてきた時に、あとから訪ねて來た綿貫ルリが、二時間ばかり同席しているうちに、彼に對して急速に好意を抱くようになつたこと、そしてそのあげく、夜おそく二人がつれだつて歸つて行くことになり、そして、その結果、あのような、わけのわからない奇怪な事件がひき起きてしまうことになつて、そのため私までが事件の中に卷きこまれてしまつて、すくなからぬ迷惑をこうむることになつた――そういう事のすべてが、すくなくとも最初の間、ルリの目にはこの男が一人の感じの良い、おとなしい青年に見えたためだろうと思われるのである。……以下、順序を追つて書いてみよう。
2
その頃――終戰の次ぎの年の春――私は、人に會いたくなかつた。誰に會つても、しばらくするとイヤになつた。先ずたいがい相手の顏を見ると、あわれになる。泣き出してしまいたいほど、あわれになる。そして言うことを聞いていると、次第に腹が立つてくる。次ぎに相手を腹のドンぞこから輕蔑している自身に氣がついてくる。いろいろ話している相手が次第々々に、この上も無く卑屈で臆病でズルくて耻知らずで無智な動物のような氣がしてくる。そして次に、その相手よ
前へ
次へ
全388ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング