」は底本では「よくおぼえて」]いないんです」
「だつて、あんた、その人と逢つたと言うんでしよう?」
「ええ。……でも、空襲中で暗かつたもんですから――」
 すると彼女は變な目をして默つて僕の顏を見つめていましたが、するうち、急にニタニタして
「ああそうか! 逢つたと言うのは、そういう意味なの? へえ! つまり、なんでしよう、この、仲良くなつたと言う――? でしよ?」
 僕は眞つ赤になりました。すると立川さんは目を輝かして嬉しがつてワーッ! と叫ぶのです。
「フッ! いいなあ! そうなのう! Mさんがその人を世話したのね? やるやる、Mさんなら、本氣でそれ位のことやるとも。……なんじやない、もしかするとあんた、そん時まで女を知らなかつたんじやない? それをMさんが、そんな事で出征はさせられないと言うんで、そんなふうにしてやつたんじやないの?」
 まるで何もかも筒拔けみたいなんです。立川さんは、深い附き合いではなかつたと言いながら、Mさんの性質を實に良く知つているようなのです。それとも、同じ芝居や映畫の世界の空氣を吸つて同じ年代を送つた人たち同士の間には、そんな細かい所まで通じ合うものが有
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