ません。
 しかし彼女は、いつたんそうして氣を許して語りはじめると、僕を離そうとしません。ふだん、そこの仲間たちには話せない、いろんな事が、ウンと溜つているらしいのです。それらを次ぎから次ぎと、順序も無く話すのでした。シワだらけのオバケのような顏は、ほとんど無表情のままで、時々樂屋のあちこちを眺める眼の底に、冷たい憎惡のようなものをこめて、低い聲でボソボソ、ボソボソとつづけるのです。そこには、零落してしまつた藝人の、自分の周圍や世間一般に對する呪い――と言うほどドギツイものではなくても、そうです、今はもう失われてしまつた自分自身の藝人としての若さに對する怨みとでも言えるものがありました。そのくせ、その事に就ては、中年の女らしくサッパリと諦めてしまつた所もあります。もう再び自分の上に藝術の世界のホントの光が差して來ることは無い。そう思いこんで、完全に思い捨てて、その事についてイライラしたりするような所は無いのです。つまり、レイラクした人間のヤケは、ほとんど有りません。それだけに、既に失つてしまつたものについての怨みのようなものも深いのだろうと思われました。
 聞いていて、僕はだんだん悲し
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