――しかし、いずれにしろ、綿貫ルリの事は、自分にはよくわかつていない。終戰後、わずか半年あまりの附き合い――と言つても、時々訪ねて來ては、いろいろの事について私の意見を聞きたいと言つていながら、ほとんど自分一人で喋り立てては立ち去つて行くというだけの交渉――の間に、私にわかつた事は、ただ、彼女の性質が、一本氣で、血統と育ちから來た率直さ――たいがいの事にたじろいだり惡びれたりしない強さと「少女小説」風の感傷癖が、こぐらかつて入れ混つているらしいと言う事ぐらいの所である。それも、ただ、受身の、しようことなしの推測に過ぎない。それが、この書き置き一つを土臺にして、いくら考えて見てもハッキリした事がわかる道理は無い。…………要するに何か妙な事が彼女の上に起き、それに貴島が關係しているという事だけは、たしかである。だが、私は、貴島のことを、小松敏喬に話すのはよした。早まつて貴島の名を言い出して、もしかするとなんでも無いことかも知れない事がらの前に、カラ騷ぎを演じることになつてもつまらぬと思つた事と、とにかくあの晩ルリを送つて行つてくれるよう貴島に言い出したのは私だから、多少の責任みたいなものが
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