晩、十二時過ぎに芙佐子は戻つて來たそうでありますが、その時の樣子が、すこし變だつたそうで、はあ。洋服を着ないで、シュミーズもこの上半身は脱いでしまつて………つまり、裸だつたような氣がすると言いますがね。はあ。家内はもうその時は寢ていましたそうで――いえ私は、別の所に住んおりますから、あの家には居りません――それが物音で目をさまして「芙佐ちやん?」と言いますと「うん」と返事をした芙佐子がですな。どうせ寢ぼけまなこで、それに御存じのように、あのへん、まだ電燈がつかないものですから、外からの薄明りの中で見たのですから、ハッキリしたなに[#「なに」に傍点]では無いと思いますが、たしかに、この、……そう言うのです。かねて、この、暑い時など、家に入る前から着ている物のホックなどはずしてしまつて、下着一枚になつて飛び込んで來たりする子でして、どうもこの……ですから、それだけならまあなんですが、朝になつてみますと、いつ出て行つたか居なくなつていたそうで。それに書置きがありまして、家内の着物――と言いましてもモンペの防空服ですけど、それを着て行つたものと見えて、なくなつております。それにですね、家から一
前へ
次へ
全388ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング