タリと笑つている。
 そして二人連れ立つて歸つて行つた。したがつて、貴島勉がなんのために私を訪ねてきたのか、遂に不得要領に終つてしまつたのである。私は、ひどく疲れていて、すぐに寢てしまつた。
 ルリの姉の夫だと名乘る小松敏喬が私を訪ねて來て、ルリの失踪のことをしらせてくれたのは、その次ぎの次ぎの日だつた。

        5

「芙佐子がいつもお世話になりまして」と黒い背廣をキチンと着て、どこかの官廳にでもつとめているらしい四十恰好の小松敏喬は謹嚴な初對面の挨拶をすますと、すぐ言いはじめた。「――實は芙佐子が昨日から……いや正確に申しますと一昨夜からどこへ行つたか知れませんので、内の者が非常に心配しておるものですから、突然お伺いしてなん[#「なん」に傍点]ですがこちらのお話しをよくしているのを姉……つまり私の家内でございますが、おぼえていまして、はあ。いえ、かねてたいへんわがままな子でして、それにあんなシバイなどにつとめていまして、一晩や二晩もどつて來ないことは珍らしい事ではありません。しかし今度は、いつもとは、すこしちがつているように思われますものですから。家内が言いますには、一昨
前へ 次へ
全388ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング