無かつた。ドアを突き開けるや、眞つ暗な家の中から出て來るといくらかホノ明るく感じられる露路のような所を、方角も考えずに、いきなり走り出した。どこをどう曲つて、どれ位走つたか憶えていない。夜ふけのことで、町は死んだように暗く、人影は無く、車も走つていません。氣が附くと、靴もはかず、靴したのままでした。やつとそれで、どのへんだろうと、立ち止つてあたりを見まわしたが、見當がつきませんでした。しかたが無いので、そのままヤミクモに又歩いていたら、大きな坂道に出て、右手に大きく水明りが見えはじめたので、ああ赤坂だと氣がつき、それから自分の家まで歩いて歸りました。父は奧で寢ていました。僕はすぐに自分の寢どこにもぐりこみましたが、非常に疲れていて、なんにもまとまつた事は考えられず、そのうちグッスリ眠つてしまいました。
その次ぎの日に僕は入隊しました。
その日は朝早く父と共に九段におまいりをしてから、直ぐその足で入隊するように前から決められていたし、氣持が緊張していたのと次ぎ次ぎと多忙だつたために、前夜のことを思い出すスキはありませんでした。……そして、それから入隊して兵舍に入り、訓練や勤務などに
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