當つたので、壁に添つて手さぐりで横に歩くと、出入口のフスマらしい箇所が有るので、そこを開け、廊下に出て、壁を傳つて三つばかり曲つて行くと低くなつているので降りるとタタキ。入つて來た時の心おぼえがいくらか殘つていたのか、タタキを左手へ四五歩行くとドアが有つて、引くと直ぐ開きました。僕がタタキに降りた時に、すぐわきの部屋で人の氣配がして、女の聲が何か呼びかけました。最初の中年の女のようです。しかし僕は答えませんでした。女にも僕を引きとめる氣は無いようです。その氣があれば、勝手を知らない僕がマゴマゴしている間に、それが出來た筈です。後で考えると、どうも、最初から先方では僕が歸りたくなつた時に勝手に歸られるように、はかつてあつたらしい。
 僕があの時もうすこし落ち着いていれば、あの家がどんな家で、どこに在つて、そして僕の相手になつた若い女が何と言う女か――どうせハッキリした事はわからないにしろ、或る程度の手がかりになる位のことは掴んで歸られた筈です。しかしあの時はただもう人から顏を見られたり言葉をかけられたりするのが耻かしくて、ただもう一刻も早くその場から逃げたい一心で、そんな事を考える餘裕は
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