。つまり言つて見れば、生きているのが張り合いがあるようになるかも知れないと言う氣が微かにした、はじめての晩に、僕は死ななければならぬかも知れなくなつていたのです。實に皮肉な、妙な氣持がしました。しかし、すぐに諦めがつきました。おれと言う人間は、いつでもこうなのだ。いつでも、事がチョット明るく、うまく行きそうになると、トタンに根こそぎ叩きこわされる運命になつているのだ。いいじやないか。生きていたつて、どうせ今俺の考えていることなど、まるで夢のような事かもわからないのだ。死ぬのもサッパリしていいだろう。……そう思つたのです。そして壕を出て行つたのです。
しかし、つい、死ねませんでした。こうして生きて、温泉につかつたりしています。僕は今H――温泉に來ているのです。
黒田策太郎は前から僕に言つていたのですが、荻窪で襲撃された後で、どうしても半年ばかり身をかくしてくれと言つて、かなりの金を僕にくれました。このままでいれば殺されるかも知れないからと僕の身を考えてくれたためもありますが、同時に、僕があのままで居ると、自分の組と國友の方との關係が益々もつれて惡化する恐れがあつたからです。黒田はそれ
前へ
次へ
全388ページ中220ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング