。なぜならば、そのようなアイマイさが生れたのは、幾分は私の記述の拙劣さのためであるが、同時に大部分が、事件が私の目に觸れた、その觸れかた自體がきわめて不完全な一面的なものであつた事から來ている。しかも私は終始、つとめて臆測や修飾を控えた。完全な脈絡の美を採るよりも、先ず何よりも眞實につかうと思つたためである。そして、そのためには、新聞雜報的な意味での低俗な「事實ありのまま」式な書き方さえも、あえて辭さなかつた。全體の不明瞭さをとがめる人があれば、その非難を甘んじて私は受けなければならぬ。
以下、貴島勉が私にあてて書き送つた手紙の數篇を書き寫すのも、この異樣な青年の、その後の姿を追いかけるという事の他に、この不明瞭さを、補つて見たいと思うためである。これを讀めば、私の記述の不完全な所や缺落した所や裏のことが或る程度までわかつてもらえると思う。
荻窪の防空壕の前で姿を消して以來、十日たつても一月たつても貴島は私の前には現われなかつた。同時に綿貫ルリもフッツリと姿を消した。久保と佐々は、その後も一二度私を訪ねて來たが、二人とも貴島の消息を知らず、心配のあまり、逆にそれを私にたずねるため
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